チャーリジェイド -CHARLIE JADE

映画ライターが語る見所特集

『チャーリー・ジェイド』のオープニング・タイトルで設定が紹介されるが、最初から3つのパラレル・ワールドが存在する特異な世界観をどのように表現し、 どんなストーリーが展開するのかが大いに気になった。その、独自の社会を形成している3つのパラレル・ワールドとは…… 『ブレードランナー』(82)のような荒廃した未来社会のアルファ界、我々が住む現代に近いベータ界、美しい自然が溢れるガンマ界だ。
 3つの並行世界のそれぞれの設定だけでなく、映像の色調を明確に区別して描いて、しかも交錯させ、観る者の好奇心を大いにくすぐってくれる。 ただし、3つの世界は並行といっても、人類の<現在・過去・未来>を象徴しているような雰囲気がある。主人公チャーリー・ジェイドの活躍、そして巨大企業による犯罪と陰謀を通じて、 ハードボイルドなSFノワールとしての醍醐味を放ちつつも、現代の寓話としての異彩も漂わせているわけだ。
 まずアルファ界では、度重なる戦争を繰り返したために人々の心は疲弊し、幾つかの大企業によって均衡が保たれ、歪んだ資本主義社会になっているようだ。だが人間は4つの階級(最下級の者は、 我々の社会でいうところの人権が剥奪されている)に分けられ、肉体に埋め込まれたチップによって常に監視下に置かれ、まるでハイテクな管理社会のよう。
 ベータ界になると、我々の現実社会に起きた、或いは起きている出来事と重なる部分が見えてくる。例えば、第1話で起きる原子炉爆発による惨状はチェルノブイリ原発事故を彷彿させるし、 その後のエピソードではアパルトヘイトやマンデラなどの史実や人物名が出ては人種差別による抵抗運動が描かれる。他にもHIVにカルト宗教など、リアル現代を投影したような要素がふんだんに盛り込まれている。

 ガンマ界はベータ界の正反対に位置する世界で大変美しい大自然に溢れ、人間にとっての理想郷のよう。でもアルファ界の多国籍企業ヴェクスコアは、パラレル・ワールドを自在に行き来する装置を開発し、 ベータ界とガンマ界の資源を独占しつつ、アルファ界から排出された汚染物質を2つの世界に廃棄しようと企む。それはまるで、現在の先進国と第三国との関係にも似ているように思う。
 最初の数エピソードは、設定の魅力やキャラクターの描写に割かれ、寓話としての色合いが強かったが、一匹狼の私立探偵ジェイドが、アルファ界の巨大な多国籍企業ヴェクスコアの陰謀に巻き込まれ、 ヴェクスコアの創設者ブライオンの息子ゼロワン・ボクサーと対峙し始めるあたりから、ドラマとして俄然面白くなりスリリングになっていく。魅力的なプロットの積み重ねや、 昆虫型スパイカメラをはじめとするSF小道具が随所に登場し楽しませてくれるが、気になる存在から徐々に最も目が離せなくなっていくのが、ジェイドとゼロワンのキャラとその動向である。最後までドラマをグイグイと突き動かすのは、この2人だといっても過言ではないくらい。
 ジェイドは少年時代から極貧で身よりもなく、最下層の生活を強いられたことから、権力や組織の歯車になるのを極端に嫌うようになり、私立探偵をして生活の糧を得るようになる。 引き受けた仕事は最後までやり遂げるのが信条で、信頼をおく人間に対しては優しさも見せるが、仕事なら殺人をも厭わない非情さもある。まさに<ハードボイルドな生き方>を実践し、良くも悪くも人心をひきつける魅力があるようだ(独特のユーモア・センスはそのひとつだろうか)。

 かたやゼロワン・ボクサーは、<暴力とセックスとドラッグにまみれた悪童>といった感じ。劇中では、カリギュラのようだと揶揄されるが、ゼロワン創造するにあたって参考にしたと思われるのが、 『時計じかけのオレンジ』(71)のアレックス(マルコム・マクダウェルが演じた役)だろう。自らの欲望の赴くままに女性とセックスするばかりでなく、レイプだって平然とやってのけ、自分の女に言い寄る男は半殺しの目にあわせる。 いや、殺す場合だってある。そういえば、ミルクが大好きなのもアレックスと同じだ。奇妙な東洋思想(なのか宗教なのか定かではないが)にはまっているし(笑)、一体何を考えているのか分からない無軌道な行動は、 最後の最後までジェイドと我々観る者を翻弄し続ける。単なる悪とも言えず、全くもって捉えどころのないキャラで、彼の過去がほんの少し明らかになる後半のエピソードを観てからも、その不可解な存在感に更に磨きがかかる(笑)。 でも、彼が暴力とセックスに溺れる理由は、愛に飢えていることの裏返しなのかも……。
 とにかく壮大なスケール感と2人のキャラに魅了され、展開の先読みが難しく、果たして、どのような結末を迎えるのか期待を寄せていると、とんでもないシュールな表現(『新世紀エヴァンゲリオン』を思い出してしまったぞ)によって幕を閉じる。 いや違う……ドラマは全く閉じていないんだよね、コレは。凄いよ!!