2001年チェコ国内において動員100万人を突破、10人に1人が観たという記録的大ヒットとなった『ダーク・ブルー』は『コーリャ 愛のプラハ』にて96年アカデミー外国語映画賞を受賞した名匠ヤン・スヴィエラークの最新作である。『コーリャ〜』のスタッフを再び集結させ、通常のチェコ製作映画の10倍の製作費を投入したこの大作は、2002年度アカデミー賞のチェコ代表にも選ばれている。

 ヤン・スヴィエラークは『コーリャ〜』で描いた心温まる感動と奥深さにさらに磨きをかけ、より大きなスケールで戦争に翻弄された人々の運命を描いたことにより、喜劇と悲劇の両方をうまく扱う才能を証明した。ヨーロッパ版『パール・ハーバー』ともいえるこの作品は、監督の父であり、『コーリャ〜』の主演及び脚本を手掛けたズディニェク・スヴィエラークが脚本を書いている。この類まれな才能を持った親子のチームとそれぞれ役者の演技力が、簡単にメロドラマに転じやすい物語を深みのあるドラマに仕上げている。またスケールの大きな戦闘シーンを兼ね備えた本作品はヨーロッパ映画の宿命といえる"アート系映画"のくくりを抜け出して、各国で記録的な大ヒットを樹立したことも大きな話題を呼んだ。

 第二次世界大戦下において故郷から逃げ出して英国空軍に入隊したチェコ人パイロットたちは、戦後ようやく故郷に戻るやいなや投獄されてしまうのだが、彼らの運命を描いた本作品は一連のフラッシュバックを通じて語られる。映画はかつてのパイロットであるフランタが収容された1950年代共産主義下の刑務所の"灰色の時代"と、戦争が始まる前の彼の陽気な思い出との間を行ったり来たりしながら語られていく。だがユーモアに富み気の利いた脚本のおかげで重い過酷な雰囲気が全面に押し出ることもなく、物語の核である友情と愛が圧倒的になりすぎることもなく、さりげなく反全体主義政策のメッセージを伝えている。

 オープニングシーンでは、チェコ人パイロットであるフランタが若いパイロットを訓練するために派遣された空軍基地にドイツ軍が侵攻してくる。チェコ軍は一発も発砲することなく降伏し、パイロットたちはドイツ軍司令官に仕えるか、逃げ出すかの選択を迫られる。フランタ役のオンドジェイ・ヴェトヒーはこの役に知性と繊細さを吹き込み、根底に横たわる誇り高き抵抗を上手く投影しながらナチスによるチェコ人への侮辱を表現している。彼は『コーリャ〜』にも出演しているチェコのベテラン俳優である。

 やがてパイロットたちはそれぞれの任務に飛び立っていく。小さな英国軍とドイツ軍との間で繰り広げられるドッグファイトにはオンドジェイ・ソウクップ手掛ける激しくかつ壮大な音楽により一層のインパクトが備わっている。

 空中戦で互いに助け合うフランタと若いパイロットであるカレルとの間には、いつしか年の差を超えた友情が芽生えるが、同じ女性に恋することで試練を迎える。この英国人女性スーザンを演じるのは『ブラス!』、『ウェールズの山』などに出演するアイルランド人女優タラ・フィッツジェラルド。カレル役のクリシュトフ・ハーディックは本作品が初の映画作品にも関わらず、若い兵士の感情の起伏を豊かに演じ、カレル役に息吹を与えた。

 フランタの友情と忠誠と愛の追想は、全体主義の時代が彼らが体現していたデモクラシーと自由の観念を鎮圧しなければならなかったがゆえに、無慈悲な刑務所の日常生活の侵入で断ち切られる。しかし典型的なチェコのヒューマニズムを持ってしては、例え彼らとともに拘束されていたドイツのナチの医者でさえも、同情を禁じえない。そこには善と悪とのキャラクター設定もなければ、簡単な答えもないのである。

 

原題:DARK BLUE WORLD/2001年度作品/チェコ・イギリス合作映画/上映時間:112分/カラー/シネマスコープ/ドルビーSRD
サントラ盤:ランブリング・レコーズ/ノベライズ:角川文庫刊/後援:チェコ共和国大使館
協力:キリンビール(株),株式会社ローソン,オリヂナル(株)
提供:スタジオジブリ日本テレビ/博報堂/ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム