ものすごく唐突なんですが、友達のデザイナーさん夫婦に男の子が生まれまして、そろそろ首もすわってきたので顔でも見に来てくださいとのことで彼の家へ遊びに行ってきたんです。このデザイナーさん、俺の周りでも有名な人格者で、仕事も遅れなし&手抜き無しという誠にキチッとしておられる御仁。奥さんも、いまだ韓流好きなホワ~ンとした可愛らしいお方で雰囲気の良い夫婦なんですよ。当日はケーキなんかを手土産に、一家の住む瀟洒なマンションへお邪魔したんです。子供と対面を果たし、お互いの近況なんかを話し合った後に旦那さんの仕事部屋を見学。家具なんかイームズとコルビュジエで揃えられておりまして、いかにもな感じなんですよ。で、机の上のパソコン方面に目を向けたら驚愕! なんと、ナチスの鉤十字があしらわれたマウスパッドが! さらに、ペン立てにはヒトラー青年団の団員に配られたユーゲント・ナイフが刺さっておりました! 平和な家庭の中に当たり前のように置かれたインパクト最強なナチス・グッズ。しかも、かなり使い込んでいる様子。それを目の当たりにした俺は瞬く間に困惑、その困惑は次第に混乱へと変わっていったのであります。
すると、どうでしょう。
「外、めちゃくちゃ寒かったでしょう。天気予報だと、今夜は《相当》冷えるらしいよ」
“え、総統だって?!”
「嫁が韓流に夢中じゃない。で、やたらとDVDを買うんだけど金が掛かりすぎるってんで宅配レンタルの会員に《入る》つもりなんですよ」
“え、ハイルだって?!”
もう、彼の発する言葉の端々が脳内に蓄積されたナチス・ワードにいちいちリンクして気が気じゃありませんでした。そういや、赤ん坊も髪型が七三気味で俺の髭にいたく興味を持っていた! 怖い!! もう可愛いと思えない!!! 一緒に『誰にでも秘密がある』のDVDを観ようという奥さんの誘いを断り、これから塾だからといわんばかりにビューンと家路を急ぎました。というわけで、今回は『Hotel ホテル』であります!

森の中に建つ、ヴァルトハウス・ホテル。住み込みの従業員として働くことになったイレーネは、そこの従業員たちの陰気な態度と建物自体に漂う陰鬱な空気に異様なものを感じ取る。以前に務めていたエーファという女性が行方不明になっているのを不審に思った彼女は、事件について他の従業員に訊いて回るが、誰もが口を固く閉ざそうとする。やがて、メガネが壊されたり、ネックレスがなくなったり、悲鳴のような声が聞こえたりと、不穏な出来事がイレーネの周りで頻発。次第にエーファが何者かに襲われたのではないかと考えると同時に、現地に古くから伝わる魔女の物語が気になるように。そんな状況に疲れてしまった彼女は、休みを取って帰省しようとするが……。


ドイツとオーストリア合作による、ホラーともミステリーとも心理劇ともつかない奇妙な味わいの作品。不気味な魔女の伝説やそれにまつわる洞窟を持ち出す一方で、失踪事件を追う警察と彼らの事情聴取を受ける従業員を登場させ、次々とヒロインに起きる現象が人為的なものか超自然的なものかを明確に判断できない仕掛けにしているのが秀逸。それらが全体を貫く寒々しいビジュアルと相俟って、物語が進んでいくと同時に観ている者にもヒロインと同様の焦燥や不安といったものを感じさせようというわけなのであります。ビジュアルつっても、薄黒い廊下とか、無人となった夜の室内プールとか、ありがちといえばありがちなんですけどね。そのなかでも空がほとんど映らないのは非常に不気味で、これは閉塞的恐怖を上手く表現していると思った次第であります。


監督は『Lovely Rita ラブリー・リタ』なる青春ドラマで、ちょこっとだけ話題を集めたらしいジェシカ・ハウスナーという女性。“字幕監修カヒミ・カリィ”というのが非常に気がかりですが、ちょっと観てみたくはなりました。ちなみに、主演はフランツィスカ・ヴァイスというなんとも幸薄そうなツラした女優。同じくオーストリア製の後味最悪映画『ドッグ・デイズ』に出ておりまして、そこでもDV野郎の恋人にズベ公呼ばわりされるなど酷い目に遭って泣きまくっていました。こんな役ばっかなんですかね?
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