アルバトロス株式会社 ホーム 最新情報 劇場公開情報 DVD/ビデオ情報 今月のピックアップ
メールニュース あるば巻き アルバグッズ
あるば巻き ホーム > あるば巻き > 宇田川じゃーなる
宇田川じゃーなる
【vol.3】愛の井口昇 (1)

 2月28日、『恋する幼虫』をレイトショー公開中のテアトル新宿で、<愛の井口昇劇場>と題したオールナイトがあった。
 深夜0時から朝6時まで、休憩を2度はさんで、2時間弱のかたまり三つ、そのそれぞれでトークにつづき作品上映という形式。
 3回のトークは、司会しまだゆきやすプロデューサー、井口昇監督、そしてゲストという構成。最初のゲストは、もうじき新作『犬と歩けば チロリとタムラ』が公開される篠崎誠監督。ここは批評家としての側面を見せ、井口作品の作品論を展開するように、鋭いインタビュアーとなった。
 井口作品では、「顔」が非常に印象にのこる。アップの顔のカットが圧倒的に多いし、それがものを言っている、ということを篠崎誠監督は言った。言われてみれば、そのとおりだ。ぼくは、これまで井口昇作品については、シチュエーションと心理的側面のほうが気になって、「顔」という画面上の具象からのかんがえかたをしていなかったので、これにはおしえられた。
 その指摘に井口監督もこたえて、たしかに自分は顔をうつすのがすきであり、特に女性の顔にはあこがれがある、とかたった。そして、うつくしさにあこがれ、そのはてに、それをきずつけたくなってしまいもする、と。
 『恋の幼虫』は、まさにその衝動から生まれた作品だ。まんが家、荒川良々が突然、編集者、新井亞樹の頬にペンをつきたて、その傷がおそろしい怪物と化していく。
 あこがれるもの、好意をいだく対象を傷つけたくなってしまうという衝動。それは、この夜も上映された、名作『クルシメさん』(97)をつらぬくテーマであるとともに、井口作品のおもしろさをつくり出している心理的な共通項だと思う。そのひとにすかれたいのに、つい、きらわれるような行動を思いつき、それを抑止するために葛藤し、しかし、とうとう抑止しきれないほどに衝動が大きくなってしまう。あまりに強大な自意識が、この内面的ドラマを生むのではなかろうか。
 きょう、これから上映される、ごく初期の作品『わびしゃび』(88)は、まさに井口昇の女性の顔へのあこがれの原点のような映画である、としまだゆきやすプロデューサーは言った。
 これは、井口が高校を卒業して2年後、専門学校をやめるかやめないかなやんでいた時期(というふうに映画のなかのモノローグでかたられている)、2年後輩の女子生徒の顔を撮影するべく意を決し、行動にうつすという8ミリ・フィルム作品。
 前半は、身のまわりの物や、鏡にうつる自分などを、こったアングルと構図でうつしながら、思いなやんでいることなどを、ひとりかたる。若い人の「自主映画」あるいは「個人映画」によく見られる、自意識だけで作品を組みたてていく作法。それが、これから自分は映画をつくっていくのだから、他者にレンズをむけなければならない、と思いたち、前から思っていたあの子を撮るべく、母校にむかう。その道中も、もちろんキャメラは作者の主観をつたえつづける。
 はじめは、文化祭の準備でもしていたのだったか、ほかの子たちといっしょにいた、その大和田さんという女の子を、ミディアム・ショットぐらいのサイズで、いきなりうつしはじめ、「先輩、なにやってんですかぁ。うつさないでくださいよぉ。」なんて言われて、それでもうつすのだが、光もくらく、そんなにかわいい子とも思えず、ということは、それほど生き生きした画面にはなっていない。
 だが、その後(日をあらためたのか)、井口は、どう説得したものか、あかるい光があふれる教室で、大和田さんとふたりっきりになり、撮影を敢行する。たぶん、専門学校をやめて新しい道をあるいていく自分を見送るというシーンを演じてくれ、といった設定を仮構して(いや実際、一応そういうシーンになっているのだが)道すじをつけたのではないかと思われるが、井口の欲望は、彼女の顔をアップで思うぞんぶんうつすことにあり、クローズアップ・レンズをつけた8ミリ・キャメラでグーッとよって、穴のあくほど見つめつづける。
 さっき、おおぜいでいる、ひきのショットのときには、それほどかわいいとも思えなかったこの女の子が、長まわしで見つめていくと、だんだんかわいく、うつくしくなっていく。眼前20〜30センチのところにあるレンズをはさんで、井口とのふたりの世界が形成され、井口の主観にある、あるべき彼女のうつくしさに、彼女はどんどんちかづいていく。
 井口昇のあまりにも鮮烈な、映画人生のスタート地点である。
 ほんとは『アトピー刑事』(03)について書こうと思っていたのだが、もうスペースをだいぶオーバーしてしまったので、次回に。

previous next
クイック・ナビゲーション
アルバトロス外伝
yura-tama
銀盤を噛め!
アルバンテナ
宇田川じゃーなる
アルバ☆レシピ
アルバ的裏日記
プレゼント
グッズ紹介
【プロフィール:宇田川 幸洋氏】
 香港映画から日本のインディーズ系映画まで、多彩なジャンルに造詣の深い映画評論家。
 主な著書に「ジョン・ウー/フィルム・メーカーズ12」(責任編集・キネマ旬報社)、「キン・フー武侠電影作法」(共著/草思社 )、「無限地帯 from Shirley Temple to Shaolin Temple」(ワイズ出版)などがある。現在、東京ウォーカー、ロードショー、花椿に連載中。

(C) COPYRIGHT ALBATROS FILM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED. 会社案内 お問い合わせ