東ドイツの歴史の中でも、なぜこの出来事を語ろうと?
ガルスカの本に興味を持ったのは、『アイヒマンを追え!ナチ スがもっとも畏れた男』を撮っていたころだった。第三帝国後、東ドイツと西ドイツでは人々は何を思いながら暮らしていたのか知りたかったんだ。本作も『アイヒマン~』同様、大きな混乱に陥った国で何が起こっていたのか、そして両ドイツとも、恐ろしい歴史から新しい未来へつながる道をどうやって見つけようとしていたのかを描いている。東ドイツは国家と社会を通してその道を見つけようとし、西ドイツはそれとは別のものを通して見つけようとした。どちらの試みも非常に困難だった。両作で表現したいのは、そこなんだ。

本作のストーリーの背景には、どんな社会的風土が?
本作の舞台設定は、1956年のスターリンシュタットだ。そこが重要なんだ。当時はまだ、ベルリンの壁は建設されておらず、社会主義は資本主義より優れた社会形態だと人々は信じ、そう望んでいた。そう考えるのが当然だと思っていたんだ。東ドイツが舞台となると、陰鬱な映像の映画になりがちだが、この映画はそんなトーンのものにはしたくなかった。だから舞台をシュトルコーからスターリンシュタットに移こと にしたんだ。現在のアイゼンヒュッテンシュタットだね。この街は、1956年当時はかなり現代的で、労働者の街として知られ、製鋼所が多く建ち並んでいた。西ドイツのルールのよ うに、便利で快適な生活が送れる街だった。だが当時は、東ドイツでも西ドイツでも、誰も戦争について、そしてナチス時代に自分たちの親が何をやっていたかについても語るこ とはせず、沈黙を貫いた。自分たちの歴史を語れないことが、この映画で描かれているような人々を作り出してしまっ たんだ。

『アイヒマン~』同様、実話の映画化ですが、気をつけたことはありますか?
『アイヒマン~』と本作は、密接に関係している。どちらも、戦後のドイツの発展に対する興味から生まれたものだ。どちらも政治ドラマだ。両作を二本立てで上映してくれたら、素晴らしいんだがね。実話を基にした脚本を書くとき、大切なのは、歴史的な正確さとドラマ性のバランスを適切に保つこと だ。「ストーリーはすべて事実だけど、ちょっと退屈だったね」 と言われるようなものは作りたくないし、「事実とはかけ離れた内容だったね」と言われるものも作りたくない。適切なバランスを保つのは難しく、多大な努力を要するが、それがうまくできれば、素晴らしい脚本になる。私はス-パーヒーローが主役のフィクションより、事実に基づいた映画を観る方が 好きだ。人々が実際に行った素晴らしい行動を知ることほど、刺激的なことはない。

若い俳優たちは、役作りや演じる時代などについて、どのように準備していましたか。
例えば、彼らはブギのレッスンを受けて、ディートリッヒ・ガルスカの本を読み、東ドイツの映画を観た。一番重要な映画は、『ベルリン シェーンハウザーの街角』だったね。この映画は僕らの映画で舞台となった年に公開されて、若い反逆者を描いたものだったからね。俳優たちにとって学ぶべきところが多くあったんだ。ヨナス・ダスラーはザクセンハウゼン強制収容所に足を運んだ。彼の家族の歴史と関係があるからね。ちなみに、僕の息子二人も映画に出演しているのだけれど(※レムケ家の次男三男役)、彼らが知らな かった時代ードイツが2つの国にに分かれていたことーや共産主義と資本主義の違いなど幼い子ども達に教えるのは大変だったよ。