映画「レディ・マエストロ」公式サイト » Director’s Message

私は長い間、オランダ人のアントニア・ブリコの映画を撮りたいと思っていました。1974年、ジュディ・コリンズとジル・ゴッドミローが彼女のドキュメンタリーを製作し、この作品がオスカーにノミネートされた時、老年期を迎えていたアントニアは、再びアメリカで注目を集めることになります。しかしその後、彼女は再び世間から忘れ去られました。残念ながら、忘れ去られてしまうのは、いつの時代においても多くの女性アーティストがたどる道です。私を最も刺激したのは多分この忘却という観点でした。

アントニア・ブリコの人生は、インスピレーションの宝庫でした。コンサートをするために彼女は嘆願し、泣きついて、頭を下げなくてはなりませんでしたが、それは当時、彼女が成し遂げた偉大な功績です。では、彼女は指揮の世界における女性の運命に革命を起こしたのでしょうか?いいえ、違います。残念ですが、今でも世界で最も著名な指揮者上位20人の中に女性は入っていません。これまで女性アーティストは常に周縁の地位に甘んじ続けてきました。自ら何とかしなければ、今後も変わることはないでしょう。

彼女は指揮という美しいけれどもつかみどころのない仕事(ある意味、映画監督の仕事と同じくらい!)に挑みます。私は彼女の仕事に対する情熱に深く心を揺り動かされました。男ばかりの社会で受け入れられるために、絶えず続けてきた奮闘にも感動を覚えました。

本作の制作にあたっては、アムステルダムに住む彼女の従兄弟レックス・ブリコ(90歳)に助けられました。彼は長年エルゼビア 誌で文化欄の記者を務めた人物で、アントニアをよく知っており、彼女の人生をつぶさに理解していました。彼女について多くを語り合えたおかげで、アントニアへの理解を深めることが出来ました。